長崎家庭裁判所 昭和40年(家)922号 審判 1966年2月11日
申立人 田村治男(仮名)
右法定代理人親権者母 田村房子(仮名)
相手方 本田次郎(仮名)
主文
相手方は申立人に対し
(一)、金四、〇〇〇円を直ちに、
(二)、昭和四一年二月一日から申立人が満一八歳に達するまで一ヵ月金一、五〇〇円の割合で毎月末限り、
それぞれ申立人の住所に持参または送金して支払え。
理由
一、申立の要旨
「申立人の法定代理人母は、相手方に妻子がないことを信じて昭和三八年三月頃から相手方と内縁関係に入り、昭和四〇年六月三〇日申立人を出産し、申立人は同年一〇月一一日相手方から認知を受けたのであるが、相手方は申立人の養育を法定代理人に委せたまま扶養料の支払いをしない。相手方は、昭和三九年三月その子のうち一子を自動車事故で失つたが、その慰藉料等として一五〇万円の支払いを受け、自動車、モーターボート等も所持している実情にあるから、右扶養料として金六〇万円の支払いを求める」というものである。
二、当裁判所の判断
(一) 当裁判所調査官大森和夫の調査報告書、法定代理人田村房子、相手方本田次郎の戸籍簿の謄抄本によると、申立人の法定代理人母は、昭和三八年秋頃長崎市駅前パチンコ店で店員として稼働中、ほとんど毎日のように同店に客として顔を見せていた相手方と知り合い、初めは相手方を独身者として信じて肉体関係をもつようになつたが、昭和三九年一月頃相手方に妻子があることを知り、しかしその後も実父の反対を押し切つて相手方と不純関係を続け、昭和四〇年六月三〇日申立人を出産し、相手方は同年一〇月一一日申立人を認知したものであることが認められる。これによると、相手方は法定代理人母と共に、その資力その他の事情に応じて申立人を扶養すべき義務があるこというまでもない。
(二) そこで、申立人の扶養料の額及びそのうち相手方の負担すべき金額を検討する。
右調査官の報告書、長崎市長田川務作成の回答書によると、申立人の法定代理人母は、申立人と共に部屋代一カ月金四、〇〇〇円の六畳一間の借間住いで、午後六時から午前一時頃まで勤務の飲屋の臨時ホステスとして稼働し、日給金四〇〇円の収入を得ていること、右勤務中は申立人の出産直前頃から同居するようになつた実姉(子一人連れ)が申立人の面倒を見ており、右四名の生活は主に義兄(姉の夫)から右姉に送金してくる金二万円から二万五、〇〇〇円位によつて営まれていること、申立人に対する授乳は粉ミルクによってなされており、右幼児の生活費は生活保護基準によると最低月額金一、四六五円となつているが、実際には最低月額平均金二、〇〇〇円から金二、五〇〇円位を要すること。
(三) 一方相手方は、現住地で表具師を職とし、妻(二五歳、無職)、子(一歳)と共に、家賃月金四、三〇〇円の借家に居住し、一ヵ月金一万五、〇〇〇円位の生活費で親子三人の生計を立てており、収入は注文の数によつて一定しておらず、右生活費に不足する分は、相手方が所有し営業用に使用している普通貸物自動車一台(昭和三九年四月新車を金五一万円で購入したもので時価金二〇万円位)を利用して友人を乗車させ、その謝礼金の稼ぎによつていること、資産としては、不動産や預貯金なく、右自動車のほか、家財道具としてテレビ、電気コタツ、同人の妻が結婚の際持参して来た洋服ダンス、茶ダンス、整理ダンス等位で他に生活必需品があるほか、これといつたものはないこと、なお昭和三九年三月相手方の一子が自動車事故で死亡の際金一〇〇万円の交付を受けたが、右自動車と中古モーターボート(金五、〇〇〇円)を購入し、その余は昭和四〇年四月一七日までに生活費に費消し、右モーターボートは修理に金をかけたあげく同年七月に金七、〇〇〇円で友人に売却しこれも生活費等に費消していること、一方負債として、申立人の法定代理人のため購入した洋服ダンス等二点の代金一万九、六〇〇円のうち金二、五〇〇円を支払つた残金について裁判所の支払命令を受け、右法定代理人が申立てた調停の期日に不出頭のため金三、〇〇〇円の制裁過料金、昭和四〇年一〇月三一日現在におけるガソリン購入代金三万一、三一六円、同月三〇日付の自動車修理代金二万七、〇四〇円(自動車衝突事故を惹起したもの)、家賃四ヵ月分(昭和四〇年八月から一一月現在まで)の滞納金一万八、四〇〇円、表具材料費金一万二、八九〇円、テレビ受信料金一、九八〇円、自動車税(納期限昭和四〇年一一月一日)金四、〇〇〇円、市県民税(昭和四〇年一期分の督促)金五〇〇円、国民健康保険税(昭和四〇年一~三期の督促)金三、一一〇円の未納があり、その他入質による借受金一一万九、三三六円(別に金七、〇〇〇円分の入質品につき昭和四〇年一〇月二一日付で流質の通知を受ける)があること。
(四) 以上の事実によると、相手方の資産としては、主に営業用の右自動車(時価金二〇万円相当)がある位で、負債多く、税金さえ督促を受けている現状にあつては、家賃を含めた月金一万五、〇〇〇円の生活費(決して多いといえない)をかろうじて維持していることが窺われるのであつて、申立人の主張するような一時金の支払いには到底応じえない(また扶養料を一時に支払う当然の義務はない。)ことが認められるのみならず、右のような現状においては分割払いにも多くを期待できないものと思われる。何故なら相手方にこのうえ多くの出費を要するとなると、相手方との間に正当な家庭を営んでいる妻子に対し最底生活さえ維持できないような犠牲を強いる結果となるからである。ただ相手方は嗜好品として煙草(ハイライト)を一日一箱位喫煙し月金二、一〇〇円位を費しているのであるから、相手方の申立人に対する扶養の義務が、高度な生活保持の義務(未成年の子の生存を恰も自己の生活そのものとして維持する義務)であることに照らして、右煙草代のうち金一、五〇〇円相当を節約し、申立人に対する扶養料として支払うことを義務付けても不当ではなく、また相手方の妻子の困窮を招くわけでもないので、前記申立法定代理人の資力その他の事情を考慮したうえ、相手方は申立人に対し、本件扶養申立のあつた昭和四〇年一〇月分から昭和四一年一月分までは一ヵ月金一、〇〇〇円(従つて一月分までの合計金四、〇〇〇円については既に支払義務が到来した)、同四一年二月一日から申立人が満一八歳に達するまで一カ月金一、五〇〇円を毎月末までに申立人の住所に持参または送金して支払うべきである。なお付言すると、申立人は、将来相手方の経済状態が好転し、生活に余裕が生じた場合には、事情変更があつたとして右相手方の経済状態に応じて扶養料の増額の申立が可能である。
よつて主文のとおり審判する。
(家事審判官 萩尾孝至)